「週末のデート、ナパバレー行きたいね」と冗談で話すカップルに、私はいつも「山梨なら今週末でも行けますよ」と返します。反論されがちですが、甲州市、笛吹市、北杜市のワイナリーと宿の質は、二〇二〇年代に入って明確に上がりました。都内から中央道で二時間、電車で一時間半。新しい関係の週末旅に、海外より現実的な選択肢です。
なぜ山梨なのか
日本ワインは、この十五年で国際的な評価を得ました。甲州(ぶどうの品種)の白、マスカット・ベーリーAの赤、そして近年は日本人醸造家による欧州系品種のワインが、パリのレストランにも並びます。
山梨県だけで、ワイナリーは八十以上。一日で回れるのは三ヶ所程度ですが、二泊三日なら十分な密度で体験できます。海外の有名産地より、移動が短く、気軽で、日本語で深い話が聞ける。これが、新しいカップルに特に向いている理由です。
エリア別の特徴
甲州市・勝沼地区
- 日本で最も古いワイナリーが集まる。明治時代からの歴史。
- メルシャン、ルミエール、マンズワインなど大手もここに。
- 小さな家族経営ワイナリーも多数。歩いて回れる距離に点在。
- 最寄り駅:勝沼ぶどう郷駅(JR中央本線)
笛吹市・石和エリア
- 温泉地と近接。宿泊の選択肢が豊富。
- 高台にあるワイナリーから、甲府盆地を一望。
- 最寄り駅:石和温泉駅
北杜市・明野・小淵沢
- 標高が高く、冷涼地系の欧州品種(メルロー、カベルネ)が育つ。
- 三澤ワイナリー、ドメーヌ・ミエ・イケノが代表格。
- 八ヶ岳の景色付き。
- 最寄り駅:小淵沢駅
二泊三日のモデルプラン
一日目(土曜)
- 新宿7:30発スーパーあずさで勝沼ぶどう郷駅9:15着
- ワイナリータクシー(事前予約、半日八千円)で二ヶ所のワイナリー見学+試飲
- 昼食:勝沼の「風(ふぅ)」でほうとう
- 夕方、石和温泉の宿にチェックイン
- 夜:宿の食事(山梨の地ワインのペアリング、コース一人一万五千円前後)
二日目(日曜)
- 朝ゆっくり、宿の温泉で一時間
- 10:30 チェックアウト、レンタカーで北杜市へ(約一時間半)
- 三澤ワイナリーまたはドメーヌ・ミエ・イケノ見学(要予約)
- 昼食:清里・萌木の村の「ROCK」でカレー
- 午後:清里の牧場、八ヶ岳倶楽部
- 小淵沢の宿に移動
三日目(月曜または振替日)
- 朝、小淵沢から八ヶ岳アウトレットを軽く
- 昼、小淵沢駅近くで蕎麦
- 14時のあずさで新宿へ16時着
ワイナリー訪問の基本ルール
- 事前予約は必須:小規模ワイナリーは予約なしで飛び込むと断られる。
- 試飲はドライバーを一人決める:二人で訪問する場合、運転役を交互に。
- ボトルを買う心構えを:試飲後に買わないと気まずい店もある。予算一本三〜五千円で二〜三本を想定。
- 質問を一つ用意:「今年の出来はどうですか」「このぶどうはどこの畑ですか」。これだけで醸造家が話し込んでくれる。
ワイナリーは、美術館のように静かに見る場所ではなく、会話の場所です。相手と醸造家と、三人の会話に入れるかで、旅の記憶の質が変わります。
宿の選び方
石和温泉は宿の選択肢が多く、一泊二食付きで二万〜三万円。新しい関係なら、部屋にお風呂がある宿(いわゆる離れ・半露天付き)を選ぶと、二人の時間の設計がしやすい。
北杜市・小淵沢エリアは、ペンションやリゾートホテルが主流。萌木の村や八ヶ岳高原ロッジなど、部屋の作りが洋風で、ワイナリー旅の延長として違和感がない。
費用の全体像(二人・二泊三日)
- 交通費(あずさ往復+レンタカー二日):四万円
- 宿泊費(二泊・二食付き):九万円
- ワイナリー試飲・ツアー:一万二千円
- ワイン購入:一万五千円
- 昼食・その他:一万円
- 合計:十六万七千円
海外のワインツーリズムに比べたら、圧倒的に安い。フランスやカリフォルニアへの週末旅行は、交通費だけで超える金額です。
季節の選び方
- 春(三〜四月):ぶどうの芽吹き。葉はまだ少ない。
- 夏(六〜八月):葉が茂り、畑が緑。暑い。
- 秋(九〜十月下旬):収穫期、最もワイナリーが生き生きしている。予約が取りにくい。
- 冬(十二〜二月):畑は休眠、でもセラーの中で新酒の試飲ができる。空いている。
新しい関係の最初の旅には、冬か春をおすすめします。観光客が少なく、醸造家も時間を取ってくれやすい。
ワインが苦手でも楽しめる
パートナーの一人がアルコールを飲まない場合、甲州のぶどうジュースや、北杜市のクラフトビール、さらには小淵沢のチーズ工房巡りに切り替え可能。ワインが主役である必要はなく、「土地の産物を一緒に味わう」という体験のほうが本質です。
帰りの車内で
帰りのあずさで、買ってきたワインのラベルを二人で並べて、「次はどれから開けよう?」と話す時間。これが、週末旅の静かなハイライトです。家に着いてから、旅の続きが始まります。
次の週末、あずさの時刻表を一度調べてみてください。山梨は、あなたが思うより近くにあります。